ジグザグマの機能的価値と普遍的幸福感に関する考察
マサラタウンの皆さんこんばんは。
早速だがあなたは【ジグザグマ】をご存じだろうか。
ジグザグマは、ポケモン第三世代(ルビー/サファイア)の舞台、ホウエン地方の至る所に生息しているノーマルタイプのポケモンだ。
ちなみに、名前はジグザ"グマ"なのにポケモン図鑑上では《まめだぬきポケモン》となっている。たぬきじゃん。
それはそうとこのたぬき、見た目どおりだがめちゃくちゃ弱い。友人達と集まって通信対戦する時もジグザグマを手持ちに入れてるヤツなんて一人もいなかった。そんなポケモンだ。
いま思えば、ジグザグマみたいな弱いポケモンは他の強いポケモンと比べて軽視されがちだった。
私も御三家最終進化の"バシャーモ"や、見た目がカッコいい"メタグロス"、"ボーマンダ"といった強くてカッコイイポケモンばかり育てていた気がする。
それはある意味仕方ないのかもしれない。誰だって対戦ゲームをやるからには勝ちたいし、ダサいよりはカッコイイ方が良いに決まっている。
しかし、この時我々たんぱんこぞう達は大きな勘違いをしていた。いつになってもポケモンの世界のように強くてカッコイイ奴が覇権を握れると信じて疑わなかったのだ。
浅はか。
本当に浅はかだった。社会の歯車となり早4年。社会人として求められている能力を悟り、私はジグザグマに畏怖した。
あのあどけない顔に隠れたポテンシャルが怖い。
◇万能型社会人ジグザグマ◇
バトルじゃ使い物にならないジグザグマだが、殿堂入り(ストーリークリア)のために旅をしている少年達の手持ちでは見かける事が多かった。
何故か。
それは、彼らが多くの主要【ひでんわざ】を覚えるからだ。
ひでんわざとは、ストーリー進行のために旅道中で使う事になる【一度覚えさせると忘れさせる事のできない】技の事だ。ストーリー進行には必要不可欠ではあるものの、お世辞にもバトル向きの技であるとは言えない。
ご存じのとおり、ポケモン一体あたりに覚えさせる事のできる技は4つまでである。バトルの主要ポケモンに、貴重な一枠を割いてショボい技を覚えさせる訳にはいかないため、"ひでん要員"と呼ばれる"ひでんわざを使うためだけに連れ歩くポケモン"が存在した。
また、ポケモンによって覚えることのできるひでんわざは違うのと、手持ちポケモンは6体までと決まっている関係で、ひでん要員は
①多くのひでんわざを覚えることのできる
②比較的捕まえやすいポケモンである
ことが好ましかった。
となると、「なみのり」「いわくだき」「いあいぎり」「かいりき(進化後)」といった旅をするうえで必要不可欠のひでんわざをおぼるジグザグマ以上の適材は存在しなかったのだ。
私の場合、最終的に彼を含む6体でチャンピオンリーグを制覇し《殿堂入り》を果たした。
改めて考えてみると、ジグザグマのようにRPGにおいて「バトルでは全く役に立たないキャラ」が最序盤~最終盤まで重宝されることはかなり稀なのではないかと気付いた。
正直、当時は雑用奴隷程度にしか認識していなかったが、今となってはこの圧倒的なキャリアデザイン力には敬仰の念を抱かざるを得ない。
恐らくジグザグマは遺伝子レベルで理解していたのだ。
「バトルでボーマンダには適わない」と。
この覆せない事実に、心が折れてしまっても仕方が無いと思う。しかし彼らは諦めなかった。
最弱のポケモンである事実を受け入れ、華々しいバトルではなく、縁の下の力持ちになる道を選択したのだ。
雑用奴隷だ没個性だなんだと蔑まれても、ただ黙々とひでんわざを身につけ、ついには組織に欠かせない存在として地位を獲得したのである。
汎用型を突き詰め"個性として昇華させた"とも言えるだろう。
一つ一つの技能を見ると特別なものではないかもしれないが、どんな事にも対応できる安定感は便利屋として重宝される。
この辺りは企業構造とよく似ていると思う。
粛々と業務を処理するジグザグマは、企業でいうところの総務部。
これからもひでん要員として主人公を影から支え続けるのだろう。
◇彼らにとっての"幸せ"とは◇
ところで、昨年末頃にポケットモンスターソード/シールド(第八世代)が発売された。
私はプレイしていないのだが、噂によるとジグザグマが世代を超えて再登場したらしい。
このタイミングで登場するということは、古参ポケモンとして再評価の流れでも来ているのか?
ふむ…どれどれ、少し調べてみるか。
ん?
なんだこいつは。
毛色が黒っぽくなっている。
しかもよく見ると、タイプが"ノーマル"ではなく"あく・ノーマル"に変化しているではないか。
これは一体...
調べてみると衝撃的な事実が判明した。
ひでんわざ廃止。
どうやら私が知らなかっただけで第7世代以降はひでんわざ制度自体が廃止されていたようだ。
そもそも最新作には「そらをとぶ」と「なみのり」以外の旧ひでんわざに該当する要素は存在せず、この上記2点についても特定のポケモンや技を必要としない新要素で代用しているらしい。マジかよ。
ああ、なるほど。つまりそういう事か。
ひでんわざのアウトソーシングに成功した前作(第7世代)で主人公からリストラされたジグザグマが、最新作(第8世代)に流れ着く課程でグレてしまったわけだ。
そうとしか考えられない。
車が普及して馬車を見なくなったように、電卓が発明されてそろばんが長方形の置物になったように、突然ひでんわざが"過去の遺物"になってしまったのだ。
グレるのも無理はないだろう。
もはや存在価値がなくなった彼らが生活していくには、悪事に手を染めるしか道は残されていなかったのかもしれない。
しかしそれで終わりでは余りにも不憫ではないか。
私はジグザグマにとっての幸せとは何かを考えることにした。
ひでん要員として縁の下の力持ちになることはもはや適わない。そもそもこの選択は「バトルで役に立たない」という理由から派生した道だったはずだ。
では逆に、バトルで活躍できる道を模索するのはどうだろうか。
よく考えてみると私は本気でジグザグマを対戦用ポケモンとして育てた事がなかった。
根気よく探せば、きっと彼らについて見落としている要素/強みがあるはずだ。
もしかしたら誰も気付いていなかったバトルでの使い道があるかもしれない!
そう思い私は押し入れの中からゲームボーイアドバンスを引っ張り出して起動した。
チャラーン♪……ピキーン✨…
起動して、さっそく一回バトルした。
そんで、すぐにどうでも良くなった。
あと、金輪際ジグザグマの事は気にしない事にした。
理由は二つある。
一つ目は、適当に入った草むらでジグザグマが野生ポケモンに瞬殺されたから。
ジグザグマがお話にならないレベルで弱いのをいまさら思い出した。忘れてたわ。
二つ目は、後釜で出したメタグロスの"コメットパンチ"が馬鹿みたいに強かったから。
たぬきに指示出すのがアホらしくなりました。
以上。
ジグザグマの皆さんは活躍することを諦めて、その辺の砂利道で遊んでてください。
では。